jokerに関する考察 ~ホアキン・フェニックス主演「ジョーカー」を見て感じた事~
まず、映画を見終わった直後は、妄想に支配されながら現実を彷徨う男の物語として受け止めていた。ただ、それだけで留まってはいなかったようで、翌日から映画のシーンを思い浮かべながら、 自分が感じた感覚をより鮮明にしていく考察をし始めた。
人に馬鹿にされたり、低所得者だったり、脳の疾患があったり、そんなネガティブな環境でも、主人公アーサーは、仕事を頑張り、母をおもいやり、コメディアンとして人を楽しませたいという希望を持って生きている。
しかし、現実の社会は、仕事のミスを理由も聞かず自分の失態にさせられ、母を信じることも出来なくなり、コメディアンになるどころか自分自身を否定される。悲劇の中からジョーカーは誕生してしまった。
そして、悲劇とリンクしながら、格差社会の不満の象徴になってしまうが、当の本人は、社会の不満とは関係なく、自分自身に不安を抱き、自分自身に優しくないものに怒り、自分自身への解放感に酔いしれていた。
映画の中のキーワードに、何回か出てくる
『i just hope my death makes more cents than my life』
という一節がある。これは、centsの前にsenという文字が塗りつぶされており、恐らくmake senseをもじって、 make centsにしたと思われる。これは様々なレビューでも取り上げられているので間違いなさそう。
ただ、この解釈に関しては、自分と合致するレビューがみあたらないので、ここで書き留めておきたい。
まず、senを塗りつぶしてあることで、意識的にsenseをcentsにしたのだという意図が汲み取れる。
(senseの場合) 私の死が私の人生よりも理にかなっていることを願っています
(centsの場合) 私の死が私の人生よりも利益をもたらすことを願っています
主人公は、低所得者だったから、利益になることを望んでいるという捉え方も出来るが、実は、centは、愛称として、pennyという呼び方がある。そして、Pennyは、主人公アーサーの母の名前でもある。母Pennyへの思いが、キーワードの一節を構築していると感じた。
母が生きていた時は、笑顔こそが母との接点で、その事を踏まえて先程のキーワードを解釈すると、『僕が死んでも、母のために笑顔がたくさんありますように。』ということだったのではと思えてくる。
母Pennyは、主人公にとって大事な人であり、自分が笑顔であることを認めてくれる人。しかし、母から虐待され、笑顔であることを強要されていた過去を知ることで殺意になってしまう。
母の殺害後、マレーの番組に出演して、『i just hope my death makes more cents than my life』
のキーワードを見た時に、母のための笑顔はもう不要であり、自分が死ぬことでは、望む事は叶えられないと思い、自殺ではなくマレーを撃つという行為に及んだのかもしれない。
そして主人公アーサーは、人の笑顔には、人を馬鹿にする側面があり、人を笑わす事と人に笑われる事の違いをマレーの番組内で実感していたと感じる。ついには、人を馬鹿にする事については、恐怖・殺害を与えることが自分のジョークであるという結果に至ったと感じた。
この考察の結果、アーサーが望んでいた笑顔の愛情表現は、ジョーカーの恐怖・殺害によるジョークに変化したと言えるのではないだろうかと結論付けてみた。
母への思いや期待が強いからこそ負への振り幅は大きかった。また、父の存在も憧れるのみで、受け止めるものは何もなかった。このことも相まって、より一層、残虐な方向に進んでいったのかなと感じた。
そしてこの思いは、実子か養子かはもはや関係なく、母だと思っていた人に対する絶望を抱いたとたん、世界は揺らいでしまうことを表現していた。その結果、妄想の恋人も、現実の隣人となり、過去の母の写真の裏にあったメッセージが、トーマス・ウェインが父である事を示していたとしても、負に包まれたアーサーがジョーカーになるのを留まらすきっかけにはならなかった。
また、妖艶にシャワーを浴びるシーンや、軽やかなステップで階段を下りるシーンなど、美しさを感じたが、それまで虐げられていた感情が解放されていることが伝わり、殺害の残虐性がかすんでいく。アーサーは自分が前に進む手段として、不安になる要素を排除する行為が、解放に繋がると認識してしまったようだ。
信用ならない虚実な笑顔を絶やすことが、ジョーカーのジョークなのかもしれない。
笑顔は愛情表現と思っており、笑顔で人を喜ばせたいとも思っていたアーサーだったが、笑顔が強要されたものだったことを認識すると、笑顔は憎しみの対象となり、憎しみを消し去る為のジョーカーが誕生したのだろう。
以上のことを考察し、ようやくジョーカーに感じた感覚が鮮明になってきたと実感した。また観たいと思う。
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